大企業だけでなく中小企業でも増えているのが、M&A。買収する側も売却したい側も、M&Aを成功させたいという気持ちは同じです。中小企業間の競争が激化し、生き残るのが大変になっている今、経営戦略としてМ&Aを成功させるには、まずはどんなМ&Aが行われているのか知ることが大事です。
特に同業種のM&Aの事例を見ることで、M&Aが成功するポイントや注意点が理解できるようになるでしょう。
本記事では、М&Aが増加する要因、М&Aの成功事例と失敗事例をご紹介します。М&Aを検討している方は、参考にしてください。
М&Aが増加する要因は、主に三つあります。一つめは、後継者問題です。経営者の高齢化に伴い、後継者問題が深刻化しています。
後継者がいない場合、会社をたたむと従業員を路頭に迷わせてしまうことになりかねません。さらに、取引先にも迷惑をかけてしまうでしょう。しかし、М&Aという方法を選択することで、自社の従業員を路頭に迷わせることなく、取引先にも迷惑をかけません。さらに、М&Aで売却した分の利益を得ることも可能です。
二つめは、中小企業同士の競争の激化です。経済や産業構造の変化により、中小企業の競争が激化しました。規制緩和や情報化が進み、中小企業にとって厳しい状況となっています。生き残るための経営戦略として、М&Aを選ぶ企業が増えているのです。
三つめは、事業拡大したい企業の増加です。大企業は営業基盤やノウハウ、人材を持つ中小企業を傘下に入れたいと考えています。М&Aで企業を買収することで、短期間で事業を拡大することが可能になるのです。
売却したい企業と買収したい企業のどちらも増加しているため、必然的にМ&Aが増加するといえるでしょう。
さまざまな業界でМ&Aが行われていますが、その中でも特に活発に行われている業界があります。それは、物流業界、医療・介護業界、IT業界、不動産業界の四つです。
M&Aが活発になった背景、M&Aを行う目的は、業界によっても異なります。まずは、各業界のМ&Aの現状をチェックしてみましょう。自分の業界だけでなく他の業界の現状を知ることで、M&Aの全体像が見えてくるかもしれません。
特に、事業拡大や事業承継を考えている経営者は、M&Aをめぐる各業界の現状について理
解しておくとよいでしょう。それでは、四つの業界について一つずつ解説します。
物流業界は、インターネット通販の浸透に伴い需要が高いです。物流業界に多数の企業が進出し、その結果、市場は飽和状態になっています。
運送に必要なドライバー不足も、深刻な問題の一つです。М&Aを行うことで、中小企業の運送会社にとっては財務基盤を強化することができます。また、大企業に買収されることで知名度が上がり、ドライバーを集めやすくなるでしょう。そして、買収側の企業は取引先を自社で開拓する必要がなくなります。さらに、М&Aで研修や育成の手間を省いて人材を確保できます。
年々、病院をとりまく経営環境は厳しくなっています。かつては単独事業経営が主流でしたが、今後はグループ経営が増えていくといわれています。
また、後継者不足が深刻化しているクリニックや病院が多いのが特徴です。人員確保や資金面などを理由に、譲渡したい施設が増えています。その一方で、医療・介護業界へ進出を検討している多業種の企業も増えています。少子高齢化に伴い、医療業界の市場は拡大していくので、М&Aは今後さらに活発になるでしょう。
М&Aにより、クリニックや病院は施設を存続させることができ、経営者の負担も軽減できます。そして、企業は医療・介護業界のノウハウや人材などの確保、新規エリアへ参入できるため、お互いにメリットがあります。
IT業界も、М&Aが活発に行われている業界です。近年、IT業界は目覚ましく発展しており、新技術が次々と開発されています。新技術が誕生するのは、大企業だけではありません。中小企業でも、新技術は誕生しているのです。
しかし、中小企業にはインフラ化させるための十分な資金がないのが現状です。さらに業界再編で不安を感じ、会社の売却を考える経営者が増加しているのも否めません。
また、様々な業界でクラウド化が進んだことで、従来はIT会社にアウトソーシングしていた会社も、自社内でIT部門を構えるなど体制を切り替え始めています。ITの需要が高まったため、IT企業の買収を検討する会社が増えるのも自然な流れといえるでしょう。
さらに、大企業は最先端の技術を獲得して、迅速に質の高いサービスを提供したいと考えています。М&Aを行うことで、中小企業は十分な資金を確保でき、大企業は最先端の技術を吸収できるのです。
IT業界は、人材不足も深刻化しています。採用にコストや時間をかけるよりも、М&AでIT会社を買収する方が良いと考える企業が増えています。
不動産業界は、人口減少による新築戸建ての需要減少や、東京オリンピック後の不動産需要の変化などもあり、伸び悩んでいます。
そのためM&Aで業績の改善を図ったり、大手企業の傘下に入り財務基盤の強化を図ったりするケースが多いのが特徴です。売り手側は資金繰りの問題を解決できるし、後継者がいなくても事業を第三者に承継することができます。オーナー経営者の場合、株式譲渡することで創業者利益を得られます。一方買い手側は、規模を大きくして市場での力を強めることができます。М&Aは、不動産業界で生き残るための前向きな選択といえるでしょう。
ただし、不動産業界のМ&Aは、条件が合う相手がなかなか見つからないこともあります。そのため、М&Aが成立するまである程度時間がかかりやすいでしょう。
中小企業庁HPによると、М&Aは年々増加しており、2019年には4000件を超え過去最高となっています。2020年にはコロナ流行の影響もあり、前年よりは減少していますが3700件です。М&Aは未公表のものも一定数存在するので、我が国のМ&Aはさらに活発化していることがわかります。
しかし、М&Aにはリスクもあるため、成功するのは難しいです。М&Aで成功するということは、事業拡大や業績アップなどの目標を達成できたということです。M&Aで成功するには、さまざまな成功事例を参考にすることをおすすめします。ここでは、М&Aの4つの成功事例をご紹介します。成功のポイント、注意点などを見出してみましょう。
はじめに、物流拠点の拡大に成功した大企業のケースです。物流の大企業は、九州に拠点を持つ競合会社を買収し、物流拠点の拡充に成功しました。2019年に、買収先の企業の株式100%を取得し、株式譲渡契約を締結しています。
この買収により、九州エリアの物流サービスの実績や取引先を獲得できただけでなく、仕事拠点の拡大が可能になりました。
ちなみに、このМ&A成立の決め手となったのは、中期経営計画の面での意見の合致です。М&Aで大企業が買収を成功させるには、中期経営計画をしっかりと策定することが重要です。
現在置かれている状況を把握した上で、長期的な経営ビジョン実現のために3~5年の間でやるべきことをまとめることが、M&Aの成功につながります。
次は、ネットのМ&Aサービスを活用し、後継者問題を解決したケースです。介護事業に参入してデイサービスを運営していたKさんは、事業が低迷し借金も増えていました。その後、住宅型老人ホームに事業転換したことで、経営が好転したのです。
しばらく順調な経営を続けていたものの、事業承継という壁にぶつかりました。後継者がいないKさんは、ネットのМ&Aサービスを活用することにしました。買い手の候補者を複数人集めることに成功し、面談を重ねた結果、現在のオーナーを選んだとのこと。
決め手となったのは、介護事業の経験があったことと、提示した雇用条件に同意してくれたことの2点です。М&Aを検討してから1年で、最適な買い手と巡りあうことができ、無事に,Kさんは引退できたそうです。
ちなみに、ネットのМ&Aサービスとはインターネット上でМ&Aの相手企業を探せるサービスのことです。スムーズに相手を見つけるには、М&Aマッチングサイトを選ぶ際に、自社の目的とニーズに合ったものを選ぶとよいでしょう。
三つめは、クロスボーダーМ&Aに成功したIT日本企業のケースです。ちなみにクロスボーダーМ&Aとは、直訳では国境を越えて行うМ&Aであり、海外企業とのМ&Aを意味します。
ITに強い日本企業は、海外の半導体メーカーを買収しました。CPUの設計を得意とする企業を買収したため、IoT関連事業のさらなる進化が可能になりました。
今や、クロスボーダーМ&Aは、日本企業が海外に進出するツールとして欠かせないものとなっています。国内を主な事業基盤としていた企業も、海外進出に向けてクロスボーダーМ&Aを行うケースが増えていくでしょう。
クロスボーダーМ&Aにおいて、経営トップの役割は大きいと言われています。経営トップ自らが、クロスボーダーМ&Aの本質を理解し、統合後の経営イメージを明確に持つことが、М&A成功のカギといえそうです。
最後に、経営統合で実績アップに成功した中小企業のケースです。6社の不動産仲介業者が経営統合し、仕入れコストの引き下げや優秀な技術者の育成に成功しました。
その結果、売上高は不動産業界最大手の企業の約半分にまで達したのです。さらに年間販売戸数は、最大手の企業を大きく上回りました。この中小企業のケースは、企業規模を拡大することで多角化した企業展開が可能になる好例です。
ちなみに、業績アップしたこの企業は、2021年12月には、世界トップクラスの森林資源を有する海外企業の75%の株式を取得することに合意しました。
サステナブルな資材調達と環境対応型ビジネスの実現に向けて、大きな一歩を踏み出した同社は、不動産業界でも注目度が高まっています。
М&Aは、必ずしも成功するとは限りません。むしろ、成功する企業よりも失敗する企業の方が多いです。М&Aを行ったけれど、事業の多角化や販路の拡大といった目標を達成できないケースも多数あるのが現状です。
М&Aで失敗すると、資金や時間を無駄にしてしまいます。最悪の場合、破産というリスクもあるので、慎重に進める必要があります。
失敗を防ぐには、失敗事例を見ることです。さまざまな失敗要因を知ることで、М&Aでの注意点が見えてきます。それでは、四つの失敗事例をご紹介します。この事例を反面教師にして、M&Aを成功させましょう。
はじめに、M&A後に期待した収益が得られなかったケースです。国内ビール市場で上位にある企業は、海外企業を買収したものの、景気悪化の影響を受けてしまいました。そして、世界最大の規模を誇る海外企業との価格競争に負けてしまいます。
その結果、1,140億円の減損を計上することになったのです。このとき、上場以来初の最終赤字を計上したとのこと。
この企業は買収先企業に関する調査が不十分だったため、投資した額に比して期待する効果を得ることができませんでした。
特に海外進出の場合、マーケティング不足のままМ&Aを成立させてしまうことがあります。М&A成立がゴールになってしまっては、危険です。たとえ魅力ある市場であっても、競合・マーケティング調査は念入りに行いましょう。
次に、子会社の不正会計により巨額損失が出たケースです。М&Aでは、買収の対象となる企業の債務や財政状況等を精査するデューデリジェンス(資産査定)が欠かせません。賃借対照法に記載されていない簿外債務を調べて、買収後に重大な事実が発覚することがないようにする必要があります。
しかし、住宅設備最大手のある企業では、デューデリジェンスが不十分だったため、巨額損失を出してしまいました。海外企業を買収したのですが、その企業の子会社で不正会計が発覚したのです。
買収後に不正会計が発覚すると、企業のイメージダウンにもつながります.。デューデリジェンスは、自社だけでやるのは限界があるため、専門家を活用するとよいでしょう。
三つめは、他国の規制を受けて収益を出せなかったケースです。日本の某大手商社は、海外企業の買収でシェアの拡大を狙っていたものの、市場の寡占化を現地政府に警戒されてしまいました。その結果、現地でのビジネスを制限され、のれん代500億円の損失が出たのです。
のれん代とは、譲渡金額の純資産と実際の買取金額の差額のことです。のれん代は言い換えると、企業に対する期待値ともいえます。のれん代は定期償却をしないため、毎月の費用計上はありません。しかし、のれん代の減損が生じると、損失をまとめて負うことになるのです。
この事例のように、非常に巨額なのれん代の損失が生じるのは、純資産をはるかに上回る巨額買収が増加したことも背景にあるようです。
最後にご紹介するのは、買収後に不正が発覚したケースです。キュレーションサイトを運営する企業を買収した大手インターネット関連企業は、買収後に記事の盗用や信憑性の低さを指摘され、多数のサイトの閉鎖や謝罪会見の開催に追い込まれました。
その結果、企業のブランドイメージの失墜を免れることはできませんでした。事業を拡大して新たな収益の柱にしようとしたものの、コンプライアンス意識やリスク管理が不十分だった例です。
買収先の企業の最高経営責任者が海外在住のまま、買収後のオペレーションを行うなどのリスクを指摘する声があったものの、取締役会で買収を決議したとのこと。買収は社長の一存で決めてしまい、企業価値の評価が正しくできていなかったことも大きいでしょう。
今や、М&Aは中小企業にとっても企業規模拡大や事業多角化のツールとして、身近な存在になっています。М&Aを行うことに意欲的な方も多いのではないでしょうか?
今回は、さまざまな業種のМ&A事例を紹介しました。М&Aは、ある程度の時間とお金がかかるため、リスクもあります。せっかくМ&Aを行ったのに、巨額損失を出してしまった、不正発覚したというリスクを避けたいものです。
しかし、成功事例・失敗事例どちらも知っておくことで、リスク管理しやすくなります。有名な事例から注意すべきことを学び、М&Aを成功させましょう。
弊社の提供する営業DXツールと、オンラインセールス支援サービスにおけるノウハウをカンタンにまとめた資料データを無償配布しております。
是非、皆様の営業にお役立て下さい。