M&A(Merger And Acquisition)とは企業や事業の合併・買収のことで、事業拡大や相乗効果などにつながるため買収する側にも売却する側にもメリットがある経営戦略です。
M&Aは日本国内の企業間で行われるケースが一般的でしたが、グローバル化の影響を受けて海外企業とのM&A事例も多く見られるようになってきました。国を超えたM&Aを「クロスボーダーM&A」と言います。
本記事ではクロスボーダーM&Aの概要やメリットをふまえ、実施する流れや成功ポイントについて解説します。クロスボーダーM&Aを検討している人はぜひ参考にしてください。
クロスボーダーM&Aとは「国境を越えたM&A」と直訳されるように、日本企業と海外企業のM&Aです。
M&Aの関わる二社のうち、譲受企業(買い手)もしくは譲渡企業(売り手)のどちらかが海外企業であることが条件となります。
クロスボーダーM&Aには以下の2種類があります。
ちなみに日本企業同士のM&Aは「IN-IN(イン・イン)型」となります。
クロスボーダーM&Aはあまり馴染みがないかもしれませんが、実は国内の大手企業でも多く実行されています。たとえばセブン&アイ・ホールディングスは、2021年6月にアメリカのガソリンスタンド併設型コンビニチェーンのスピードウェイを買収しました。
少し前のデータになりますが、経済産業省の調査によると2017年のIN-OUT取引は672件で前年比5.7%増を記録しています。今後ますますグローバル化が進むことを予測すると、クロスボーダーM&Aの件数はさらに伸びることでしょう。
日本国外の企業とM&Aを締結できるクロスボーダーM&A。海外に事業を広げられるチャンスとあって、グローバル化のなか注目を集めています。
クロスボーダーM&Aを実行すると、以下のようなメリットや効果が得られます。
それぞれのメリットについて、以下で詳しく解説します。
クロスボーダーM&Aによってグローバル企業になることができ、海外の市場を開拓できます。
日本は市場の成熟化により、価格競争になっている傾向が強まっています。しかし新興国はまだまだ市場に伸びしろがあり、自社の市場にはまだ拡大の余地がある可能性もあります。そのためM&Aをして自社の市場を持ち込めれば、売上拡大の効果が期待できます。
また、今まで自社の市場ではなかった新たな分野への参入も可能です。クロスボーダーM&Aを行った海外企業の事業市場に拡大でき、自社の事業範囲が広がり企業価値も高くなるでしょう。
クロスボーダーM&Aにより新たな市場を開拓したり自社の市場を拡大したりできれば、事業の成長に大きく影響します。
クロスボーダーM&Aのメリットとして、海外の技術力を活かした新商品開発が可能になる点が挙げられます。
日本の技術力は高いと言われていますが、もちろん海外でも技術力に自信をもつ国は多々あります。特にアメリカや中国は技術力の高さで有名ですし、ヨーロッパには多数のIT先進国があり最先端のIT技術を開発しています。
クロスボーダーM&Aをすると、そのような海外企業がもつ先端技術のノウハウを導入できます。海外の技術力を活用することで新商品の開発が進み、今までなかったような画期的な商品を開発できる可能性もあるでしょう。
また海外の技術力を導入した新商品のため、競合他社との差別化も可能です。市場が成熟しているからこそ、日本で生き抜くために、クロスボーダーM&Aを活用するのも一つの手と言えます。
クロスボーダーM&Aによって、コスト削減のメリットも期待できます。
原材料を海外から調達している企業は、原産国の企業とクロスボーダーM&Aを行えば工場を原産国に構えられるため、調達機能と生産機能を集約できます。調達にかかる諸費用や手間などを削減できるため、コストを抑えることができるでしょう。
また日本よりも人件費を抑えられる国の企業とクロスボーダーM&Aをして生産の拠点を移せば、人件費の削減も可能です。
さらに特定の分野で高い技術をもっている海外企業とクロスボーダーM&Aができれば、海外企業のノウハウを取り込むことができ業務効率化による生産性向上にもつながります。
事業運営のコストを抑えることで、新商品開発や設備投資などに資金を回すことができるでしょう。
クロスボーダーM&Aは節税対策としても効果があります。
大きな売上があっても税金として支払う金額が多すぎると、結果的に手元に残る金額は減少します。日本国内の法人に課せられる税は、世界的に見ると比較的高い水準となっており、税金の負担は少なくありません。
海外でも税制度はありますが、国によって税率が異なり日本よりも低い国は複数あります。国によっては、海外企業に対する税金緩和制度を設けている国も存在します。
海外企業に対する税の優遇措置を取り入れている国の企業とクロスボーダーM&Aができれば、日本国内で事業を展開するよりも手元に残る金額が多くなります。
ただし、国よって税率や優遇措置の内容が異なります。クロスボーダーM&Aを検討する際には、各国の税制度についてよく調べると良いでしょう。
クロスボーダーM&Aは、資金調達の面でも有効です。
海外の大企業や成長企業とクロスボーダーM&Aができれば、投資家たちからの信頼や期待を獲得でき、資金調達の際に有利になります。集めた資金で事業運営を軌道に乗せられれば、さらなる売上向上も見込めるでしょう。
またクロスボーダーM&Aの相手国にある海外ファンドの収益も期待できます。海外ファンドからの収益があれば国内外の投資家からの信頼も得やすくなり、企業価値が向上するでしょう。
このように、資金を集めて事業を拡大したいと考えている企業にとっても、クロスボーダーM&Aは有効な手段と言えます。
クロスボーダーM&Aはさまざまなメリットがあるため、検討する企業は増加傾向にあります。
しかし海外とのM&Aのため、国内で実施するよりもハードルが高いと感じている企業も少なくありません。また言葉の壁があり、交渉に不安を感じている人も多いのではないでしょうか。
クロスボーダーM&Aであっても、国内でのIN-IN型M&Aの流れと大きな違いはありません。
ここではIN-OUT型のクロスボーダーM&Aの流れについて解説します。
クロスボーダーM&Aに限りませんが、M&Aは実行したくてもすぐに成立するわけではありません。入念な準備がポイントになります。
まずはクロスボーダーM&Aの検討段階として、自社内でプロジェクトチームを立ち上げましょう。迅速に意思決定をしたり充分な情報を得たりするためには、社内でのチーム編成が不可欠です。すでに国内でM&Aを経験したことがある企業であれば、そのときのメンバーがいると安心でしょう。
さらに社外のアドバイザリーを起用するのも忘れてはいけません。クロスボーダーM&Aの知識や経験が豊富なアドバイザーを起用することで、クロスボーダーM&Aに関する不安を少しでも払拭できます。
なるべく現地とのつながりが深いアドバイザーを起用するのがおすすめですが、国がまだ決まっていない場合はさまざまな国とパイプをもつアドバイザリー企業に協力してもらうと良いでしょう。
アドバイザーの助言を聞きながら、買収候補となる企業を選定します。
自社と似通った業界で探しがちになりますが、視野を広く持って探すのがおすすめです。思わぬシナジー効果の可能性もあるので、まずは広く情報収集しましょう。
仲介する役割のアドバイザーは「売却したい」「事業譲渡したい」という企業の情報を豊富に持っています。アドバイザーから情報収集し、買収する企業を探してください。
またM&Aのマッチングサイトも存在します。海外の案件数は少ない傾向ですが、情報収集という視点では使ってみても良いかもしれません。
候補先をいくつか選定したら、企業価値について詳しく調査しましょう。もちろんリスクについても把握する必要があるため、買収候補先企業の倒産リスクや業界のリスクについても詳しく調査してください。
買収したい企業を選定したら、企業と直接交渉をして条件を詰めます。実際に買収企業と話ができる機会なので、企業運営や内部体制などについても細かく聞いておくと良いでしょう。
条件が決まったら契約段階に進みます。買収対象とする企業がある国の法律に合わせて契約書を作成するのが一般的ですが、アメリカのように州ごとに独自の法律が制定されている国もあるので注意が必要です。
また株式市場を通さずに株式を買うかどうか(TOB)は、国によって規制が異なります。買収対象企業の国の規制や考え方を理解しておきましょう。
さらに注意しなければならないのが、EU加入国とのクロスボーダーM&Aです。各国の法律や規制のほか、EU自体が課している規制もあるため確認しておかなければいけません。
当たり前のことですが、クロスボーダーM&Aでは英語などの外国語での契約書作成が一般的です。
正確な翻訳が必要ですが、書面では法律や契約関連の専門用語も多く出現するため、間違いがあってはいけません。契約書や法律の翻訳を得意としている企業に依頼しましょう。
契約締結をしてクロージングができれば、晴れてクロスボーダーM&Aが成立したことを意味します。
ただしクロスボーダーM&Aは「契約して終わり」ではありません。契約がスタート地点とも言えます。
クロスボーダーM&Aを実行できたからと言って気を緩めず、長期的な視点を持って事業の統合に取り組むのが大切です。
クロスボーダーM&Aを流れに沿って実行したからと言って、必ずしも成功するとは限りません。国内でのM&Aですら難しいのに、言葉や文化が違う海外企業とのクロスボーダーM&Aはさらに難易度が高いため、失敗する確率も高くなります。
多大なリソースをかけて実行するクロスボーダーM&Aだからこそ、失敗せずに成功させるためにも、以下の成功ポイントを参考にしてください。
買収したいと思う企業があった場合、公開されている情報だけで買収を判断するのは危険です。綿密にデューデリジェンスを行い、買収対象企業についてより深く知っておきましょう。
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aの対象企業の価値やリスクなどを評価するための事前調査です。
この段階で情報が不足していて判断を誤ってしまうと、クロスボーダーM&Aが失敗してしまう可能性があります。
買収することでシナジー効果(相乗効果)が得られるかどうかを判断したり、正確にバリュエーション(買収金額査定)を行ったりするためには、デューデリジェンスによって対象企業のことを深く理解する必要があります。
またデューデリジェンスだけでなく、買収対象企業がある国の情勢についても調査しなければいけません。市場成長の余地があっても、情勢が不安定な国であれば企業存続が難しくなる可能性があるためです。
国も含め、デューデリジェンスは慎重に行いましょう。
クロスボーダーM&Aは、さまざまな契約書や合意書などを通じて契約を締結します。
そのためそれぞれの文書を正確に作成しなければ、認識のズレや解釈の違いからトラブルを招きかねません。最悪の場合は契約が無効になってしまうことも考えられるので、文書作成には細心の注意を払いましょう。
書面の内容の正確さは、実際にクロスボーダーM&Aを取り持ってくれるアドバイザーの力を借りるのが最適です。現地の言葉や法律、商習慣に精通しているため、書面の内容の正確さを判断してくれるでしょう。
また翻訳も注意しなければいけません。一つの単語でも翻訳を間違えてしまうと、内容がまったく違うものになってしまいます。
翻訳企業を選定する際には、買収対象企業の国の言語を得意としているだけでなく、契約や法律の書面作成の実績がある企業に依頼すると良いでしょう。
クロスボーダーM&Aを成功させるためには、専門家の力は欠かせません。ただでさえM&Aは難しいものであるのに、海外企業とのクロスボーダーM&Aはさらに難易度が高く、経営者が独自で進めるのは困難です。
依頼する専門家を選定する際には、M&A仲介会社やアドバイザリーなど複数社から相見積もりを取り、費用を比較しましょう。
「コストを抑えたい」と思っている企業も多いかもしれませんが、クロスボーダーM&Aは難易度が高いため、専門家の依頼コストも高くなる傾向です。かと言ってあまりに見積金額が低いと、実績が不十分であったり追加費用を徴収されたりする可能性もあります。
ほどよい見積金額を見極めるためにも、相見積もりは必須です。
さらに実績や評判なども重要です。初めてのクロスボーダーM&Aならば、なおさら経験豊富な専門家に依頼したほうが安心でしょう。
さまざまな情報を吟味したうえで、適切なコンサルタントや法務担当者を選ぶことが大切です。
インターネットで調べると、多数の企業のクロスボーダーM&A成功事例が掲載されています。
他の企業がどういったクロスボーダーM&Aをしているかを参考にすると、自社がどうやってクロスボーダーM&Aを進めるべきか考えやすくなります。自社と似通った業界や、自社が買収検討している企業の国など、さまざまな視点で成功事例を見てみましょう。
また成功事例だけでなく失敗例も確認するのがおすすめです。クロスボーダーM&Aで失敗要因となるリスクを知っておけば、事前に対策を打つことができるため成功の可能性を高められます。
今回は、クロスボーダーM&Aの概要やメリット、さらには具体的な進め方や成功ポイントも解説しました。クロスボーダーM&Aを検討している企業だけでなく、漠然と海外進出を考えている企業もぜひ参考にしてください。
クロスボーダーM&Aによってさまざまな効果が期待できますが、専門家の協力や充分な情報収集がなければ失敗しかねません。今回紹介した進め方や成功ポイントを参考に、効率的にクロスボーダーM&Aを進めてください。
また急いでクロスボーダーM&Aを成立させようとすると失敗するリスクがあるので、スケジュールを組み立てて計画的にクロスボーダーM&Aを進めましょう。
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