簡単にわかるランチェスター戦略。 使うメリットとデメリットも解説
ランチェスター戦略という言葉を聞いたことがありますか? マーケティングや営業活動に欠かせないとして、広く知られている市場戦略の基本的な考え方です。
ランチェスター戦略には「強者の戦略」と「弱者の戦略」があるので、どんな企業規模の会社にも当てはめられ、汎用性の高い理論といえます。ランチェスター戦略に初めて触れるという人にもわかりやすいよう、メリット・デメリットと共に実例をご紹介します。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは1970年代に体系立てられた、日本発祥の販売戦略です。「少々古いのでは」と感じられるかもしれませんが、「いかにして物を売るか」「他社よりも抜きんでるには」といった考え方は、現代でも重要なことです。
原点「ランチェスターの法則」
「ランチェスターの法則」とは、第一次世界大戦の頃に戦闘機を開発していたイギリス人、フレデリック・W・ランチェスター氏の名前がついた戦闘の法則です。氏は、自らが開発した戦闘機がどれほどの成果を挙げることができるのかを分析し、48歳のときに「戦争と飛行機―第四の武器の曙」という著書を残しました。この本では、兵隊の数と武器の数、さらに武器の性能を加味した数式で戦闘の優位性が計算できるとしています。
この理論が、第二次世界大戦中のアメリカで「オペレーションズ・リサーチ(OR)」として発展します。ランチェスター戦略の原点は、自国と他国の物資や武器の性能を分析し、勝利するための戦略方程式だったです。
その後、高度経済成長に陰りが見え始めた日本で、「いかにして物を売るか」という企業間の争いの指針となるマーケティング理論として体系立てられました。
ビジネスシーンで応用する
ランチェスター戦略には原点に近い第一法則と、アメリカで発展したORにのっとった第ニ法則があります。第一法則は業界1位のシェアを削っていくことを目的としているので「弱者の法則」、第二法則は資本力や物量で圧倒するので「強者の法則」ともいわれます。
弱者の戦略は、資本を集中させる一点集中戦略で、トップ企業のシェアが及んでいないニッチな客層や地域を選定し、顧客との信頼関係を強固に結んでいくという差別化戦略をとります。
強者の戦略では、豊富な物量を確保して全国的なマスマーケットへ展開し、コマーシャルなどのイメージ戦略で顧客との接触を増やします。競合他社に対しては、価格競争や同価格帯でも質を高めていくというミート(追随)戦略をとります。
ランチェスター戦略が目指す企業の姿は、市場シェアで2位を引き離した1位の座を確立することです。市場シェア40%以上であれば、圧倒的に有利な立場をとれるとしており、市場シェア7%以下であれば、撤退も余儀なしという判断をします。
ランチェスター戦略のメリット・デメリット
現在有効とされているマーケティング理論は欧米発のものが多いのですが、ランチェスター戦略は日本で体系立てられた理論です。
市場シェアに対する具体的な数値と行動目標や顧客に対する戦略など、営業活動のあらゆるシーンに応用できます。ランチェスター戦略を取り入れたときのメリットとデメリットについて解説します。
メリット
現在までにさまざまな企業でランチェスター戦略に基づいた広報・営業活動がとられていて、その有効性が実証されているので、自社の営業戦略にも取り入れやすいでしょう。市場シェア1位の強者以外の立場にある場合は、「弱者の法則」を営業活動に取り入れてください。
資本力のある大手企業やシェア1位の知名度と戦うには、勝機のある土俵で、商材・サービスの質と顧客との距離の近さを武器にします。具体的にはニッチな地域性や購買層を探り、そこで求められているニーズを分析し、限定された市場でのシェアをとっていくことになります。
顧客との関係構築には、ビラ配りやクーポン発行、会員組織作りなど、地道と思われる手法を採用しますが、ランチェスター戦略は魔法の戦略ではありません。強者に対して、可能な限り負けない戦いを仕掛け、少しずつでも確実に成果を上げていくものなのです。
デメリット
ランチェスター戦略を取り入れることのデメリットや欠点はほとんどありません。
しかし、市場分析の段階で、弱者と強者の立場を間違えないことが大切です。自社の分析はつい甘くなってしまうものですが、弱者が「強者の法則」をとっても成果は上げられません。市場シェアの分母をどう設定するかなどで迷ったら、「弱者の法則」を選択すれば、まず間違いはありません。仮に強者が「弱者の法則」をとったとしても一定の効果は期待できます。
また、マーケティングと経営戦略の原理原則のように語られるランチェスター戦略ですが、この1本だけで必ず成果を上げられるというものではありません。特にIT分野では検証の余地があるとされ、ネットショップの普及により地域差がなくなりつつありますが、ニッチな客層・ニーズの掘り起こしは容易になったとも考えられます。ネットにはネットの営業戦略が必要となるでしょう。
ランチェスター戦略の事例細分化
ランチェスター戦略は日本独自の地域戦略や流通戦略と親和性が高く、現在までに大手・中小を問わず、さまざまな企業で実践され、その効果が実証されてきました。その一部をご紹介します。
下着メーカーの差別化戦略
ドイツでのシェア1位を達成していたトリンプは1964年に日本法人を設立し、1946年創業で日本の婦人下着売上トップに君臨していたワコールに対して、弱者の法則をとりました。
1990年代、当時としてはユニークなネーミングとCMで「天使のブラ」「恋するブラ」などの新商品を次々にヒットさせ、「アモスタイル」という若年向けブランドの設立に至ります。百貨店への出店で高級路線として知名度が高かった強者との「差別化」を図り、若年層に受け入れられたのが事業拡大の要因です。
企業としてのイメージ戦略にも長けていて、「ノー残業デー」「がんばるタイム」「さん呼び運動」などの取り組みがたびたびメディアに取り上げられ、広告費を掛けずとも大幅なプロモーション効果が得られました。
また、顧客との距離を縮める「接近戦」戦略として、「トリンプフィッティング」といわれる専門知識を磨いたアドバイザーが全国の店舗に派遣されていて、顧客との1対1のシーンで質的な強みを発揮しています。
コンビニチェーンの地域集中出店
日本のコンビニ店舗数ランキングで1位を独走するセブンイレブンは絶対的な強者に見えますが、1990年代の関西圏に限ってみれば、ローソンに後れをとる弱者の立場にありました。
ここでセブンイレブンは弱者の法則「一点集中主義=ドミナント戦略」をとります。資本を集中させ、関西圏の商業の中心である大阪に出店攻勢をかけたのです。
地域の独占率を高めることは、配送効率や地域ごとの宣伝商材における費用対効果を上げることができます。また、そこを生活圏とする人々の認知度が上がり、やがて「コンビニといえばローソン」という固定概念をも崩していきます。
激安カット店のターゲット
現在では1000円の価格設定がある美容院も珍しくありませんが、激安カットの市場を開拓し、全国展開するほどの大成功を収めたのが、キュービーネット(株)が運営するQB HOUSEです。
QB HOUSEは徹底的に無駄を省いたオペレーションシステムで「散髪10分1000円」という短時間での接客と低価格を実現させました。また、業界組合に加盟しないことで、定休日の廃止、営業時間の延長といった規制に縛られない新しい店舗作りをしていきます。
いつでも行ける手軽さと時短効果で、忙しいサラリーマンや散髪にそれほどお金を掛けられないという学生を中心に客足を伸ばしていきました。
QB HOUSEは従来の理美容院のユーザーからターゲットを絞り、リピーターを獲得していったので、2019年に1200円へ値上げした際にも客離れは起きませんでした。海外展開や女性客・シニア層の取り込みを目指し、さらなる拡大戦略をとり続けています。
まとめ
ランチェスター戦略はマーケティング部門や経営企画部のための理論で、一介の営業マンには関係ないと感じる人もいるでしょう。しかし、ランチェスター戦略の原則を知っておくと、「今度の戦略は弱者の法則だな」「これは接近戦で競合との差別化を図っていくということだな」と営業活動への理解が深まります。経済ニュースを読み解く力も格段につくことでしょう。
営業は競合他社との戦いであり、陣取り合戦であるという考え方が、仕事をぐっと面白くしてくれます。